株式会社インキュビット代表取締役社長 北村尚紀さん

今回インタビューさせていただくのは、株式会社インキュビットを2014年に創業し、代表取締役社長を務める北村尚紀さん。「最高のテクノロジーとデザインで、想像力を影響力に変えていく」。こうしたミッションを掲げ、新規事業専門のITパートナーとして、WEB技術やディープラーニングの技術を用いて、IT事業の立ち上げをサポートしています。IBM Watsonの公式パートナーにもなり、WEBアプリ開発とモバイル開発アプリに加え、チャットボットやAIを用いたサービス開発にも注力されています。

 

このインタビューでは、北村さんが起業をめざすに至った経緯や、イノベーションが起き続けるエコシステムをつくりたいというビジョンについてお聞きしました。彼の「好きなことと社会的意義が両立できる活動を追求する」という価値軸の原点には、高校中退と引きこもりという経験があったといいます。そこから今の道をどう切り拓いていったのでしょうか。


――インキュビットの「ITによる新規事業立ち上げサポート」とは具体的にどのようなものでしょうか。

 

インキュビットは、「新しい面白いものをつくりたい、価値のあるものをつくりたい」という想いの強いエンジニアたちが集まっている集団です。だからこそ、クライアントに言われたとおりにつくるという形ではなく、パートナーという形で新規事業が成功するためコンセプトづくりから一緒に携わっています。Incubate(孵化させる)とITから成るIncubit(インキュビット)の社名にも、こうした想いを込めています。

 

――印象的な案件の具体例を教えてください。

 

印象的な事例は、ロボットのモーションエディターという、ロボットの動作をデザインするためのソフトウェアの操作画面をつくるというものです。とあるロボットベンチャーからの依頼で、少しでも使いやすくデザイン性の高いUIになるよう、こだわりを追求していく。そのプロセスが面白く、技術的にも内容的にもエキサイティングな内容ですね。

 

もう一つ夢中になった事例は、いわば高齢者向けのネットフリックスのような動画配信サービスです。認知症の方は昔のことを聞いたり話したりすると脳が活性化し、それが認知症予防につながるといいます。そこで、当時の白黒の動画を数多くそろえ、自由に見られるようにすることで、当時の記憶を思い出しながら元気になるきっかけを生み出す、というものです。このサービスを発明した起業家と実際に老人ホームなどを観察して、試作品をつくっては改良を重ねていくプロセスが非常に面白いですね。

僕らが大事にしているのは、「最高のテクノロジーとデザインで、想像力を影響力に変えていくこと」というミッションに関連して、ただ利益を出すだけでなく、その影響力に社会的な意義があること。そうしたクライアントをパートナーに選んでいきたいという軸は一貫しています。

 

――インキュビットの起業を決めたきっかけは何でしたか。

 

直接のきっかけは、困っている友人の課題を解決するために、「こういうサービスをつくりたい」と想いを同じくする仲間とたまたま意気投合したことでした。実は、起業の道を選ぶようになった原点は、遡ると高校時代の経験にあります。

当時の僕は、学校教育の場で当たり前とされている評価軸にのっとって生きることに疑問を持っていて、学校へ行くことや企業へ就職し働くために努力する意味を見失っていました。そのため、高校を3カ月で中退し、何も先が見えないまま1年半の引きこもり生活を送りました。その後、なんとか人生を取り戻そうと海外の大学への留学を決意したのですが、高校中退者には奨学金等の補助がでず、高校中退をしたうえにお金も不十分。学歴とお金のなさに対するコンプレックスを強く感じていました。ただそのコンプレックスが逆に強いモチベーションになり、何が何でも留学を実行するために学費はアルバイトを3つ掛け持ちして自分で稼いでいました。

 

――そんな経験があったのですね……。引きこもりの状態から、お金を稼ぎながらカナダの大学へ進学するって、並大抵のことではないと思います。北村さんを突き動かしたものは何だったのでしょうか。

 

すでに既存のレールからはずれていたので、「なんだってやってやる」という心境だったからですかね。やれることは全部試したい。そうすれば自分らしく生きられる場がどこかに見つかるんじゃないか。そんな思いで動き続けてきました。

カナダではコンピュータサイエンスとビジネスを学び、学業でも良い結果を残せたのですが、こうしてレールに乗って進むだけなら、今後成長していくビジョンが見えないと感じたんです。そこで、大学を2年で卒業して、帰国し20歳のときに最初の会社を起業することに決めました。

実はその前から、業務委託の形でシステムをつくる仕事を請け負っていたんです。学費を稼ぐためにやっていたボーリング場のアルバイト時代、「エクセルをいじってほしい」という一言を機に、独学でエクセルやアクセスを覚えて店舗のシステムをつくったんですね。そしたら僕のいる店舗だけが生産性が上がって「そのシステムを全店舗に導入したい」と本社に呼ばれ、エンジニアとして仕事をいただくようになっていたんです。ただ、自分で生活に困らないだけのお金は稼げていましたが、このときは起業で何を実現したいかというビジョンもかたまっていなかったんです。

 

――そこから今のような使命感を抱くようになったのは、何かきっかけがあったのですか。

 

22歳のとき、これまでのコンプレックスから来ていたネガティブなガソリンが空っぽになって、ゼロベースで自分を見つめ直したんです。劣等感や競争心だけでがむしゃらに働いていても、幸せにはなれないんじゃないか。そんなふうに心のどこかで薄々気づいていたんでしょう。自分が生き生きした状態になれてはじめて、周囲も幸せにできる。それを実現するために打ち込めるものは何だろう、と自問自答が始まりました。

最初は「社会貢献」だと思い、「スティーブ・ジョブズのように世界を変えたい」と語っていました。ところが、これがしっくりこなくて、やがて「他者や社会にために」という気持ちだけでは難しいと感じ始めました。大事なのは、自分の中にある本質的な好奇心にしたがうことだと気づいたんです。自分なりの価値観、好奇心、情熱、こだわりに素直に生きたほうがいい。これが自分の行動指針になっています。

 

中編につづく

取材・執筆:松尾 美里

日本インタビュアー協会認定インタビュアー/ライター。本の要約サイトを運営する株式会社フライヤーにて経営者や著者のインタビューを行う。

ライフワークとして、面白い生き方の実践者にインタビューを行いながら、「キャリアの棚卸に効くキャリアインタビューサービス」を実施中。ブログは教育×キャリアインタビュー。

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