株式会社インキュビット代表取締役社長 北村尚紀さん

今回インタビューさせていただくのは、株式会社インキュビットを2014年に創業し、代表取締役社長を務める北村尚紀さん。「最高のテクノロジーとデザインで、想像力を影響力に変えていく」。こうしたミッションを掲げ、新規事業専門のITパートナーとして、WEB技術やディープラーニングの技術を用いて、IT事業の立ち上げをサポートしています。IBM Watsonの公式パートナーにもなり、WEBアプリ開発とモバイル開発アプリに加え、チャットボットやAIを用いたサービス開発にも注力されています。

このインタビューでは、北村さんが起業をめざすに至った経緯や、イノベーションが起き続けるエコシステムをつくりたいというビジョンについてお聞きしました。彼の「好きなことと社会的意義が両立できる活動を追求する」という価値軸の原点には、高校中退と引きこもりという経験があったといいます。そこから今の道をどう切り拓いていったのでしょうか。

 

前編はこちら

 


――北村さんは、上司・部下などのヒエラルキーが一切ない「ホラクラシー組織」のスタイルを取り入れるなど、個人と組織の関係についても独自の発想をされていますね。

 

僕は、会社の仲間にも、それぞれの価値観にしたがった生き方を大事にしてほしいと強く思っているんです。メンバー一人一人が自分らしさを発揮しながら、組織として成長していくにはどうしたらいいかを追求する中で、今の組織形態に行き着きました。

僕は個人と組織の成長について、こんなふうにとらえています。「内側⇔外側」と「個人⇔組織」の二軸でマトリックスを書くとします。すると最初は「内側×個人」の象限にある「想いや情熱、価値観」から始まって、それを今度は「内側×組織」へと昇華さ、仲間を巻き込んでいく。ここではそれぞれの「個」の価値観の違いが尊重されるため、組織を管理するという発想ではなく、協働するという発想が生まれます。じゃあどうやって自分たちの価値観を社会貢献につなげていくかと考えることで、「外側×組織」の象限に移行していく。これが理想の組織のフレームにもなっています。

 

――これほど「体感」を伴って、「個人としてのあり方」や「組織としてのあり方」を築いている方って珍しいと思います。

 

「自分」という軸をブラさずに、最大限自分らしく生きることが非常に大事だと経験上、考えているんです。僕は小中学生のときに「なぜ生きるのか、なぜ学校で勉強しなければいけないのか」という問いにぶつかった。しかも周囲は誰もちゃんとした説明をしようとせず、頭ごなしに勉強を強制しようとする。これに大きな違和感を覚えたんです。考えて考え抜いた結果、僕は家庭と学校で良しとされる価値軸から、何としてでも解放されたい、という結論に達したのです。

そのとき学んだのは、ある種の「逃げる勇気」を持つことが必要だということ。これに気づかせてくれたのは、引きこもりの時期に読んだ、加藤諦三さんの『「本当の自分」はどこにいる』という本でした。その本には、難関大学合格や有名企業への就職、そして企業での出世といった画一的に善とされる価値観がもはや通用しない世の中になっていて、各自が「本当の自分」を見つけることが大事だと書かれていました。

自分を取り巻く外部の世界をたとえ敵にまわしても、自分の内面にある価値軸を持って生き続けられるのかどうか。これが大事なんだと、背中を押されたような気がします。こうして最終的に行き着いたのが「僕が僕らしく生きる」という軸だったんです。

 

――突出した才能や想いをもった子どもが、自分の力を発揮するチャンスが日本では少ないという課題意識を抱いています。そうした子どもたちが自分らしさを活かして、道を切り拓けるように、大人はどんなマインドを持つべきとお考えですか。

 

僕は日本の学校教育の枠組みにはまらなかったけれど、何とか自分なりの道を切り拓いているという点で、数少ない生きた事例なんじゃないかなと思うんです(笑)

大人にも子どもにも伝えたいのは、「自分なりの価値観をどうつくっていくか」を、早くから理解しておくほうがいいということ。テクノロジーも含めて社会の変動が激しい現在、良いとされる価値観が世代によって異なるのは当たり前。親と子の価値観の差もこれまで以上に大きくなるでしょう。だから親が普遍的かつ本質的な人間の道理のようなものをしっかりとつかんでない限り、外から価値観を子どもに教えることは難しいでしょう。

かわりに、親が子に伝えられるのは「自分で哲学する、考えること」の大切さ。例えば、「学歴が大事」だと思うのなら、なぜそれが大事なのかを子どもと一緒にとことん話し合っていけばいい。もちろん、子どもを一人の人間として尊重し、多様性も認めたうえで。そうすれば子どもはおのずと自分なりの道をみつけていくと思います。

 

――親子で一緒に納得いくまで考えを話し合うことが大事なんですね。子どもたちが身につけておくといい力についてもぜひお聞きしたいです。

 

大事な能力は2つあって、1つ目は「自分がどう生きるかを自ら組み立てる力」。この組み立てにはコツがあって。自分が今ワクワクして生きていられるかどうかを観察する際に、仮説を立てて行動し、検証するんです。

例えば僕はインキュビットを立ち上げたとき、自分がどんなものにワクワクするかを知るために、「これが好きかもしれない」というテーマを仮に設定して、実際に取り組み、ワクワクしたかどうかを観察するようにしていました。好きなものを1つずつ試してPDCAサイクルをまわすようなイメージです。まずは「ゼロからものをつくる」というところから、作曲や裁縫なども試していき、「単にモノづくりでなくて、テクノロジーに関連することに自分は燃えるんだ」などと、ワクワクするものの精度を高めていくんです。

じゃあ次はテクノロジーに絞って、面白かった漫画をレビューしあうアプリの開発に挑戦してみました。ところが、やる気が途中で徐々に減っていったので、なぜそうなったのかを振り返った。すると、テクノロジーを使った事業の中でも、中長期的に意義のあるプロダクトやサービスをつくるのが好きという欲求に気づけたんです。

ポイントは、どんどん行動して、自分の中で「なぜそう感じたのか」を深く振り返ること。こうした「内省のPDCA」を続けることで、常にベターな状態で生きることができる。この能力って、なかなか知られていませんが、自分らしい生き方を実践するために欠かせない。これをもっと学生のうちに学べる機会があればと思っています。

 

2つ目の大事な能力は、自分の進みたい生き方と、社会のニーズとのバランスのとり方を考える力です。いくら好きなことでもニーズがなければ、仕事にすることは難しい。稼がないと生活していけないんで(笑)だから、好きなことを軸に、どんな価値提供の形なら経済的にもうまくいくのかを考えないといけない。

一方で、そのバランスが経済性に偏ってしまった結果、「お金を稼ぐために自分の好きなことを我慢している」という人が多い気がします。好きなことに忠実であるという視点と、それで食べていけるだけの価値を提供できるかという視点。この両者のバランスをとることが大事だという考え方こそ、今後の日本の教育で伝えていったほうがいいと思うんです。

 

後編につづく

取材・執筆:松尾 美里

日本インタビュアー協会認定インタビュアー/ライター。本の要約サイトを運営する株式会社フライヤーにて経営者や著者のインタビューを行う。

ライフワークとして、面白い生き方の実践者にインタビューを行いながら、「キャリアの棚卸に効くキャリアインタビューサービス」を実施中。ブログは教育×キャリアインタビュー。

Justaのページに戻る>>

ブログホームに戻る>>